hamabi芸術祭

社会人向け絵画教室

OBOGの活躍 hamabi出身の先輩たちの今

志水 曜介氏
プロダクトデザイナー

志水 曜介 SHIMIZU YOHSUKE

横浜美術学院デザインコース出身
2002年、多摩美術大学生産デザイン科プロダクトデザインコース卒業 現在、プロダクトデザイナーとしてソニー株式会社クリエイティブセンターに勤務

記事:2007年度横浜美術学院案内書より

高校2年のときに、勉強も高校生活にも退屈していて漠然と自分の進路を考えていたころ、美術の授業だけは没頭できていたことから、初めて美大への進学を意識しました。もともと、父がプロダクトデザイナーだったということも無関係ではないのかもしれませんが、それよりも美大が、絵を描いて進学できる大学だということが魅力だったような気がしますね。この仕事につながるきっかけとしては、単純な動機でした。

一番最近の仕事のひとつは、パソコンのVAIO type Lのデザインに関わったことです。 パソコンは今や人々の生活に欠かせないモノになりつつあります。ただ、やはりまだまだ高額なものですし、「仕事の道具」的な空気も残り、テレビやオーディオなどに比べるとニッチな存在です。そんなPCを家の中でいかに簡単に楽しく使え、いかに人の生活へ溶け込んだ存在になるかが一番大事なポイントで、その為に機能は必要最小限に絞り、使う人や場所を考え、スタイリングもどこまで「PC臭さ」をとれるかに焦点を絞りました。そこで透明の板で浮かせた佇まいにデザインすることでインテリアに調和させ、PCとしての高級感も損ねないよう考慮したわけです。

VAIO type L 15.4W型

VAIO type Lシリーズ

たいていPCは性能を数字で表し、それが一番の売り文句となりますが、VAIO type Lは「家の中での佇まい」「家の中での使い方・スタイル」を一番の特徴として商品化を目指していたので、今までの固定概念を崩すべくそれを説得するのが一番苦労しました。今までにないデザインを作る時にはやはりみんな慎重になります。お客さんの感じる「PCっぽくないけど大丈夫?」と「今までになくて新しい!」は紙一重ですからね。

実際の仕事の進め方について話すと、ソニーの場合は、だいたい1つの商品を1人のデザイナーが担当します。まず、たいてい商品企画部署から、新しい案件がデザイン部署に降りてきます。それを上司がどのデザイナーに任せるか振り分け、そこで初めて仕事を受け取るわけです。メモのようなスケッチから始まり、そこからいくつかに絞って、正確な図面にしたり奇麗なドローイングにまとめたりしていき、さらに絞ったものを最終的にはモックアップという立体模型にして確認します。ただ、ここまでの流れの間には、企画担当者などと商品性に対する会議が何度も行われますし、実際に作れるかどうかについて、設計担当者と毎日意見をぶつけ合います。もちろんデザイン部署内でもたびたび確認が行われ、幾度も形を変えながらようやくデザインが決まります。ここまでのプロセスで短くて1ヶ月余り、たいてい2ヶ月少々でしょうか。思いついたものがそのままパッと形に出来るものじゃないですし、一人で複数の案件を同時に進めていることが多いですから、本当にハードな日程になりがちです。なかなか決まらない場合はこのプロセスを何度も繰り返す事もありますね。デザインが決まっても、お店に並ぶまでは様々な問題や変更があるので、その度にデザインを調整したり、時には生産現場のある海外まで行って確認することもあります。そうやって、最終的には早くても半年程かかって、自分のデザインした製品がお客さんの手に渡っていくわけです。

こういう風に話していくと、大変さばかりが強調されてしまいそうですが、もちろん好きでやっていることですから大変なだけとは思っていません。プロダクトデザインに関わっていて一番意識しなくてはならないと思うのは、必ず使う相手がいるということです。例えば、料理を作る時や大事な人にプレゼントを送る時など、そんな時に考えることや感覚に似てますね、プロダクトデザインは。料理って、何を加えたらおいしくなるか、どう盛りつけたらいいか考えますよね。このスパイスを入れようかとか、このお皿に盛りつけようかとか。プレゼントもどんなものを送ったら相手が喜んでくれるか、驚くだろうかって考えます。選択肢は無限にあるので、相手の特徴や性格や好みなどを考えて決めると思うんです。デザインも同じです。どういうデザインにしたらこれを使った人が一番満足するかを、様々な視点から考えます。相手の事を考えないでプレゼント送るとしらけてしまうことがあるように、デザインもちゃんと使う相手を考えてあげないと不満だらけのしらけたものになってしまいますから。

hamabiでは、自分の手で何かを生み出す面白さを確信させてもらいました。白い四角の上に空間が広がって行く様は本当に気持ちよかった。それは鉛筆でも絵の具でも紙の造形でも同じ。ハマってましたよ。たしかに大学受験対策とか堅苦しいことだったりもするんですけど、あまりそういった事は意識させ過ぎない雰囲気がよかったのかもしれません。ここは、「美の術」を「人生の大事なもの」にさせてくれた場所ですね。

多摩美では、その面白さに加え、生み出すことの意味とか責任みたいなことを学んだ気がします。デザインとは、ひとりよがりにただ自分が格好いいと思うものを押し付けるのではなく、本当に人の為を考え、それを魅力的なものにして人に届けるもの。どんな形にしたらうれしいか、使いたくなるか、欲しくなるか。そんな事を毎日考えさせられました。ここは「デザイン」を「人生の大事なもの」にさせてくれた場所です。そして何より、hamabiも多摩美も、同じ志を持った仲間に囲まれていることがなによりの刺激でしたし、大きな思い出とたくさんの友達を残してくれたのは、本当に大切な財産です。