芸大・美大受験の専門予備校「横浜美術学院」

横浜美術学院

どんな風に描いているの? 制作プロセス

「石膏デッサン・マルス」/絵画コース日本画クラス

2007年6月12日up!

制作プロセス第一弾は、デッサンの中でも難易度の高い石膏デッサンです。今回は日本画クラス・夜間部(高3生)の授業にお邪魔して、制作プロセスを見せて頂きました。

石膏像のデッサンに限りませんが、デッサンする前に最も肝心なことは、描き出す前に自分の作品の完成した状態をしっかりとイメージすることです。それが曖昧だと、ただ目の前の石膏像を写すことだけに終始してしまいます。

描き出しの段階では、構図を決めるために軽くクロッキーします。自分の構図のプランに従って、木炭紙の中心の位置と石膏像の中心の位置を確定し、そこを通る垂直と水平を基準として慎重に形を捉まえにいきます。このとき、輪郭的な形を合わせることだけを気にしていると、立体としての空間が壊れてしまいますから、両手でものをつかむような気持ちで、画面の中に描かれていく形のバランスに注意します。一応全体に手が回った状態ですが(写真右)、体と頭部の軸がまだ幾分ずれていたり、相対的な位置関係がつかみきれていなかったり、若干ギクシャクしています。

描き進めながら、形の狂いを修正していきます ( 写真左 ) 。この辺りから作者の力量の差がはっきりと表れてくるもので、描く力のある人ほど多くの問題点を見つけ出すことが出来ます。現象的にははっきりと見えていなくとも感じ取っていること、触覚的に感じることや周辺を取り巻く空気まで表現しようとし始めます。真新しい石膏像なので、一見胸から肩にかけて真っ白に見えますが、作者は肩の厚みなども構造的な理解に基づいて表現しようとしています ( 写真右 ) 。描き進めていくことで、具体的な要素が増えてくればくるほど、部分と全体の相対的な関係を見失いがちになります。ひとつのことだけに掛りきりにならない精神的なフットワークの良さが求められますが、左右の胸、頭部と両肩の動きなどの狂いにまだ気づいていません。

( 写真左 ) ようやく向かって左側の肩と頭部の位置の違いが見直されました。暗さの中の明るさや、明るさの中の暗さがやや強調されすぎていて、像全体の形の秩序がやや壊れかけてきています。形の構造と明暗の調子の必然的な関係を再度見直しながら、相対的に強い関係を持ち合っている要素を選択して描き進めます。終盤に近づけば近づくほど、行為としては細部を描き起こすことが増えていきますが、画面に向ける意識は、一層全体のバランスを疑うものでなくてはなりません。やや目の前に見えていることに引っ張られすぎているきらいがあり、見えない背後の形をどう感じさせるかという意識が弱く見えます。大胸筋の緩やかな形の変化なども、まだなかなかつかめないでいます。

( 写真右 ) 完成です。結局、この像特有の若干丸みを帯びた胸の張りはつかみきれませんでした。向かって左の腕から肩にかけての形の弱さや首の表現の曖昧さ、腹部の形の単調さ、見えない後ろ側の暗示の弱さなどなど不満は幾つも残りますが、この時期の高校 3 年生の、作品への取り組みの姿勢としてはまずまずでしょう。時には石膏像を床に置いて真上から見下ろしてみるなど、視点を変えて対象に触れることで発見することも多くあります。今後、そうした経験を多く積むことで、より実在感のある世界が作れるようになることを期待しています。

ハマ美の授業で実際に制作している様子をご紹介しています。普段はあまり見る事の出来ない制作プロセスを見る事で、これまで何気なく見ていた作品への見方がきっと変わると思います!不定期に更新していきますのでたまにチェックしてみて下さい!

今回の一枚

石膏デッサン/マルス
木炭紙大白象紙・鉛筆
絵画コース日本画クラス K.A.さん(高3生)作品

拡大画像がご覧になれます。

今回のモチーフ/マルス
別名「ボルゲーゼのアレス」

これまでの授業のご紹介

こぼれ話

石膏デッサンの話

デッサンのトレーニングでは、人物や静物などさまざまなものをモチーフにしますが、石膏像もそのひとつです。石膏像の元になっている彫刻は、大半が古代ギリシャ・ローマ帝国・ルネッサンス期のイタリアのものが多く、ギリシャに端を発してヨーロッパに広く伝播し、後には西欧のみならず世界中の文明国で、美しさの基準として受け入れられた美意識によって作られた彫刻です。そのバランスを身に付けるにはとても優れた教材ですが、長く美大入試に出題されているうちに、テクニックや方法論だけが極端に先走りする弊害が目立つようになり、以前は美大入試の実技試験の定番モチーフだった石膏像も、最近は一部の例外を除くとほとんど出題されなくなりました。今回の石膏像は、ボルゲーゼのマルスと呼ばれる彫刻の上半身をカットしたもので、難易度が高く、石膏デッサンの本来の目的を見失わずに取り組むことが出来たら、とても良い経験になったことでしょう。