芸大・美大受験の専門予備校「横浜美術学院」

横浜美術学院

どんな風に描いているの? 制作プロセス

「有彩色細密描写」/デザイン・工芸コース

2007年7月18日up!

対象を、自分が意図したとおりに表現できる力を身に付けることは、誰もが望むことです。それには、画面の中で、何が必要で何が必要でないかを取捨選択する目が必要ですが、何となくそれを探るだけではなく、とことん対象に食いついて描ききってみるという経験も必要です。手を動かす前に、一度対象をしっかり観察して構造を理解しましょう。

まず、最も自分が対象を把握しやすい視点から構図を決め、軽く全体に当たりをつけてから、淡いトーンの絵の具を置いていきます。このとき、輪郭的な形にこだわりすぎて絵の具を輪郭の内側に塗っていくのではなく、むしろ対象に手で触れていくような感覚で絵の具を置くといいでしょう。 ( 写真上 ) 気持ち良さそうに筆を置いていますが、甲羅の下側から前脚、首にかけての形が一見単純に見えることに引きずられて、形がやや輪郭的に流れてしまっているように見えます。

自分に近いところから積極的に絵の具を置いて、手前・奥の空間を見せようとしているようですが ( 写真上 ) 、先にも触れたように、形が構造的にイメージされていないため、その取り組みもやや観念的に見えてしまいます。描き初めよりもむしろ空間的には痩せてきているでしょう。作者がどの時点でそのことに気づき、積極的に画面の中で揺さぶっていけるか、それがポイントになります。細密描写の場合は、特に制作の途中で、形が硬くなってしまうということがありますが、対象を細かく写すことだけに意識が向いてしまうと、なかなかそこから抜け出られなくなります。

基本的には描き出しからのものの見方に大きな変化がないまま描き進んでいます。 ( 写真上 ) 具体的な描写を進めることによって、甲羅とそれ以外の部分の質の違いを利用して、リズムを変えようとしているのかもしれませんが、ここまではまだそのことに成功していません。むしろ、甲羅の正中線の延長上の位置から出ているはずの首まで、前脚の付け根から出てきているようにすら見えます。他にも前脚が骨格のないもののようにぐにゃりと曲がって見えてしまっていたり、下側の甲羅の位置が、すべて同じ平面上にあるように見えてしまったりしています。

( 写真上 ) 完成です。途中気になっていた部分はかなり改善されましたが、描写を進めていくことで表情に幅が出たものの、首の位置のズレの印象は残っています。また、形同士が交差している部分を利用して、空間的にメリハリを作ってやることなど、「関係」を描くことには弱さを感じます。部分的にはかなりしっかりと描けていても、基本的な構造を捉まえ損なうと、ラフに描かれたものよりも一層印象の違いが目立つものです。甲羅の一番手前の端がしっかりとした位置を感じさせてくれれば、画面の上半分の背景の空間がもっと自然に感じられたでしょう。

ハマ美の授業で実際に制作している様子をご紹介しています。普段はあまり見る事の出来ない制作プロセスを見る事で、これまで何気なく見ていた作品への見方がきっと変わると思います!不定期に更新していきますのでたまにチェックしてみて下さい!

今回の一枚

有彩色細密描写/亀
B4サイズ画用紙・アクリル絵の具
デザイン・工芸コース M.S.さん(高卒生)作品

今回のモチーフ/亀

これまでの授業のご紹介

こぼれ話

描写の話

ルネッサンス以降の西欧の絵画の多くは、緻密に描写することに重きを置いていましたが、その多くがモデルを前に据えて描かれたものではなく、想像によって描かれたものだということを考えると、画家たちの再現描写の力のすごさを感じます。近代以降も、多くの画家が、特に若い時期に、優れた細密なデッサンや絵画を制作しています。生涯を描写的なスタイルで通した画家の中では、特に、ファン・アイク、フェルメール、デューラー、アングル、シャルダンなどがよく知られています。「部分はすべて全体に奉仕する。」「細部には神が宿る。」などの言葉を残した画家もいます。