このごろ都で流行るもの、携帯、デジカメ、i-Pod。液晶、プラズマ、ハイビジョン。
そのうちふたつは一応私も持ってはいるが、特別強い関心があるから持っているわけではない。仕事上、またはごく稀に私生活の中で便利な道具として使うことがある程度だから、無ければ無いでそれは構わない。携帯電話は、私に連絡がつかなければ、それはそれで何とかしなさいと言えるほど偉くも無く、たまに家人が連絡をよこすのが関の山というほどは暇ではないという、中途半端な存在ゆえ、一応持ち歩いている。ちょっと数えてみたら、私の携帯電話には、約70種類ほどの機能が付いているが、もちろんほとんど使うことは無い。デジカメは、撮影した画像がすぐに確認できて、撮影からプリントまで簡単に個人でできるという便利さや、デジタルデータとして保存・活用できる機能性の良さなど、仕事上でも重宝することは多い。とは言え、これまた、静止画や動画のさまざまなフォルダーの設定や、撮影モードのセッティングの数など、余計な機能満載である。
残念な話だが、この手の消費財はことごとくオーバーデザインである。オーバーデザインというのは、見た目が必要以上に造り込んであるという意味ではなくて、付加価値として余計な機能や高い性能を付け過ぎているという事である。普通に生活している人には、使う必要が無いか、使いきれないほどの機能が付いていて、たとえ使うことがあったとしても、それは一度か二度試してみる程度のことに違いない。いやいや、それはあんたの能力がそうなのであって、若い人はそんなことは無くてみんな結構使いこなしているよ、と言われるかもしれないが、そう言われても、その道のプロでもない人が、何千曲もの楽曲をストックして常時持ち歩く理由がわからない。これは、ごく平均的な50代のオヤジの感覚だろう。
オーバーデザインの商品に人々が群がるのは、それだけで便利だとか他のものより優れているとかいう感触を持つからだろう。そういうものを保有することで、ちょっとした優越感も持つことができる。必要性があるから作るのではなくて、作ることで、人に必要だと感じさせる。そんなもの必要なのか?という問いには、こんなすごい性能なんだから・・・という答えが返ってくる。この、すごい性能という決め文句には絶大な効力があるらしいのだ。この文句は、人間の持つ果てしない欲望を表す典型的なフレーズなのかもしれない。数千曲のデータがストックできて、いつでもどこでも聴くことができる。財布代わりにもなればテレビも観られて、花火もパーティーも綺麗に撮れる。肌のシミまでばっちり再生100インチ。
突拍子も無い連想だが、オーバーデザインのものをありがたがるという心理は、一部の国が核兵器を手放そうとしないとか、躍起になって手に入れようとするのと似ていると思う。核兵器というのは、究極のオーバーデザインだからだ。持っていても実際には使えないし、いざとなっても使う必然性など、どこをどう探してもみつかるものではない。但し、一度にまとめて人を殺す道具としては、とてつもなく高性能である。北米一家の藪という親分は、手下を気に入らない相手の縄張りにどんどん送り込んで、その縄張りを潰してしまい、系列の他の一家の親分には、俺のやることに口挟むんじゃねぇと脅しをかける。それもこれも、圧倒的な量のその兵器を独り占めしている、という自惚れのなせる業だ。だから、いいなぁ、あれほしいなぁという親分があちこちにいるというわけだ。
ものだけがオーバーデザインに犯されているのならまだ救いはあるが、いまや情報もことごとく犯されている。こっちはかなりやばい。情報がオーバーデザインされて、そのために、いつの間にか価値観もオーバーデザインされてしまって、知らず知らずのうちに訳のわからぬ欲求不満を蓄積させて、それがちょっとしたことで爆発する。右寄りの人たちばかりか、そうとも言えない人たちの口からも、嫌なナショナリズムの声が聞こえたり、ちょっとした挫折感がヒステリックな犯罪を引き起こしたり。肥大したエゴとコンプレックスに振り回されてしまっている。そんなに苛々カリカリしなくてもいいじゃないかと思うのだが・・・。
ものが売れなくなったと言われて久しい。そういう中で売れているものが、日常生活の必要条件も十分条件も、軽く飛び越えたようなものばかりだということは、景気を上昇させることができるほどものが売れるためには、今以上に、人々がオーバーデザインのものに、欲望を掻き立てられなくてはいけない、ということのような気がしてならない。食べきれないほどの料理を出して、もう結構と断っているのに、あらお気に召しませんでしたか?困ったわ、ずいぶん残っちゃって、などと言われているようなものだ。たまには腹いっぱい食べたい、と思うのは悪いことではないだろうが、いつもそう思っていてくれなくては困る、もっとそう思ってくれなくては困ると言われても、困るのはこっちだ。
だからお前は貧乏人なんだ、という声が、いま聞こえた。

