もうすぐ受験シーズンが始まる。既に一部の大学では推薦やAO入試などが始まって結果も出ているから、もう既に始まっているといってもいいかもしれない。数年前から、美術に特に関心のない人でも名前くらいは知っている複数の老舗の美術大学に、専攻によって事実上定員割れの状態が起きていて、そうでなくとも以前に比べればどこも受験者数は激減しているから、大学にとってのドル箱である受験料収入も激減している。そのため、ほとんどの私立大学が幾つもの受験機会を作って、なんとしてでも受験料を稼ごうと必死である。何でもいいから大学に入りたいと、そのことを目的化している人にはわが世の春かもしれないが、実際には大学に入ればその先は何とかなるどころか、就職すればその先何とかなるという時代もとっくに終わっている。

美大受験予備校に関わりながらこんなことを書くとは…、という向きもあるかもしれないが、そうではない。美大受験をサポートしているからこそ、書くのである。一般大学の学生も同じだが美術大学の学生も、デザインの専攻の学生は特に、卒業後に就職する、つまり仕事で人に雇われるということ以外の生き方のイメージを持っていないものが多い。大学で適当に課題をこなしつつ、キャリアには繋がらないウエイターやウエイトレス、コンビニなどのアルバイトで何年も過ごし、リクルートスーツを着て、新卒でできるだけ名の通った大きな会社に雇ってもらうために奔走する。めでたく就職できた暁には周りからおめでとうと言われ、すごいねとおだてられ、気が付いてみると、サービス残業の毎日でろくに有給休暇も代休も取れず、耐久消費材のような日々を送る。もちろん、本当に自分が好きなことなら、年中無休も厭うことはないし何時間ぶっ続けで働こうと構わないが、もしそれが、それ程好きでもなく面白くもないことなら地獄である。他人や組織から指図されて、本当に面白いと感じられる仕事ができるというのは、ごく一部の幸運な例外を除けばまず無い。そうだとすれば、就職は、学生時代に好きなことで食っていく仕事を自分で見つけられなかった人の、最後の緊急避難程度のものだと考えておくべきだろう。そうはいっても、やはり名の知れた企業に就職するのは安心だし、規模が大きければ潰れることはないだろうという人はいまだに少なくない。あちこちで、嘘だろ? と思わず感じてしまうほどの大企業が赤字に転落し、いくつも倒産しているにもかかわらず、である。そういう学生たちは、それでもなお、自分の一生を全面的に自分以外の人の手に委ねようとする。リスクを分散するというのは危機管理の鉄則だが、人に雇われて人の指図で動くということは、そこにリスクをすべて集中させるということではないか。最初は自分一人のリスクでも、そのうち家族全員のリスクを他人の手に委ねることになる。一般にはあまり知られていないところでも技術革新はものすごい勢いで進行していて、それに伴って社会構造も急激に変化している。印刷物は、その量が増えこそすれ減ることは、今までも今後もほとんどないにも関わらず、印刷業界では規模の大きな再編成が進行中だ。ネットとパソコンのおかげで、印刷のための原稿から印刷物ができるまでの工程が大きく変化したために、以前必要だった人と機械が要らなくなってしまった。今ではこの事態にいち早く対処できた業者か、特殊な技術と設備を持つごく一部の業者しか生き残れない事態になっている。それは、印刷物そのものではなくそれをデザインする側にも当然起きていることで、パイの大きさは確実に小さくなってきているのだ。ひとつのものを生み出すために、かつては10人の人が関わらなくてはならなかったことが、今では2−3人で十分だということはあらゆる分野で起きている。技術革新は省力化を進行させる。それでは、技術革新は人から仕事を奪う一方で、仕事そのものが社会から無くなっていくのかといえばそうではない。技術革新は、新しい仕事も生み出すのであり、問題はその新しい仕事を生み出せない人にある。仕事は、お金を貰って身に付けたり作り出したりするもので、お金を払って身に付けられるものではない。つまり、お金を払って通っている学校というところは、既存のシステムに適応できる均質な労働者を作るところで、新しい仕事のシステムを作れる人を育てるところではないということだ。

学校は、新しい仕事のシステム作りを教えるところではないのだから、自分でやるしかない。自分が面白いと感じる仕事の現場に、学生の間にタッチすることだ。下働きでもいいから、仕事の動きと仕組みに早くから触れて、わずかでもお金を貰って体に刻み込むことだ。当たり前のように行われていることの代替案を、いつも自分の中で用意する癖をつけることだ。仕事を作るというのは、まったく新しい業種を作ることとは限らない。今ある仕組みを見直して、要素を組み合わせたりすり合わせたりして新しい仕組みを作り出す。それを自分がイニシアティヴを持って実行できるなら、間違いなく面白い仕事になるだろう。不幸にも学生時代にその力が付けられなかったのなら、緊急避難で人に雇われるのもいい。ただ、いつでも独り立ちできる準備はしていたほうがいい。危機管理は、人にしてもらうものではない。未来は自分が作るものだ。