2017.10.30 No.002
デッサン力ってなんですか。

絵の基本はデッサン?
デッサンとは、皆さんご存知のように鉛筆や木炭など、単色で行うのが一般的で、複数の色を使用してもせいぜい2〜3色までです。油絵等の本画制作と比べると、より端的な表現であり、骨格だけの絵と言っても良いかも知れません。絵の基礎はデッサンであり、デッサン力がつかないと絵は描けないということを、皆さん繰り返しお聞きになっているのではないでしょうか。今回は、このデッサン力についてふたつの具体的な力に分けてお話ししようと思います。
みたものを見たままそっくりに描く?
まずひとつ目の力は、再現描写という力です。平易な言い方をすれば見たままそっくりに描くことですね。アカデミックなデッサン力と言ったりもします。一般的に考えられているデッサン力とはこれを指すのではないでしょうか。いつかは自分らしく描きたいが、初めは見たまま(写真のように)描けるようにならなくてはならないと、多くの方が絵の勉強を始められた時に考えたことと思います。主観的な捉え方よりも、まずは客観的な捉え方ができるように、と。でも、実際は見えた通り描くということはとても大変で難しいことです。見たままを描いたが、物の自然な感じや立体感、そのものらしさが描けなかったという失望をほとんどの方が体験することになります。
ここで重要になってくる事はものの見方で、それが解ってくると、次第に描けるようになってきます。
具体的なポイントを挙げてみましょう。
- ものを単純化して見る(瓶は円筒形になど)
- 画面の中で統一感のある光を設定する
- 細部だけに眼を奪われず、大きく全体をまとめていることを抜き出してみること
(物どうしの位置関係や立体感など)


見方を学んでいないと、見たままを描いているつもりが、目立つことや気になったことを漠然と描くことになってしまいがちです。物の自然な感じを描くのに必要な情報をピックアップ出来ていないのです。見たままを描くという単純で素朴なことを実現する為には、目立つことに惑わされないものの見方が必要だということです。
絵作りする力としてのデッサン力
さてふたつ目の力は、もう少し広い意味でのデッサン力、絵作りする力です。画面を客観的に捉え、制作をコントロールする力を指します。〝絵を見る力〟や、〝描画材を扱える力〟などもここに含まれます。これによって、表現に自由さと豊かさが生まれます。この場合、ただモチーフを見たまま描くだけでなく、どう描く(表現する)のかということが大きな意味をもつことになるでしょう。対象に似ているかという事よりも絵になっているかどうかという事が重要です。再現描写においては邪魔となっていた目立つことや気になったことなども絵作りの大切なポイントになってくる可能性があります。
絵作りする力を付けるには、さまざまな描画材・基底材を試し、慣れ、さらには絵を見て、表現や仕組みを研究するなど、違った視点での取組みが必要になってきます。堅苦しく考える必要はありません。線の表情・空間認識・色彩・絵肌・描画材の魅力など、絵固有の要素に目を向け、楽しめるようになると絵の世界はぐっと広がりをみせる事でしょう。
時折、「基礎を学ぶと絵がつまらなくなる」という台詞を聞きますが、それは再現描写的なデッサンを学んだ後、それらを捨て去り、新たな表現に向かうのが難しくなるという経験を、数々の絵描きがしているためでしょう。本当に基礎を学ぶと絵がつまらなくなる訳ではありませんが、同時に絵作りする力も養っていきたいものです。
このふたつの力をバランスよく学ぶことができれば理想的ですが、必ずしも両方の力が高いレベルで必要なわけではありません。抽象的な表現をしたいのに、再現描写的なデッサンから始めるのでは成果があるまで随分遠くなってしまいます。また、見たまま描けるようになってから絵作りを学ぶというように、ステップアップ的に考える必要もありません。描きたい絵のスタイルに応じて、必要な力を必要なタイミングで、徐々に付けていかれれば良いでしょう。
え塾では、デッサン力をつけたい方はデッサンコース。絵作りを学びたい方には絵画コース。それぞれが学びたい力に応じて講座をご用意しております。